お城の北側に行くと思い出す。高校時、同じクラスの津田と『登れる、登れない』で意地の張り合いをしたこと。
城の石垣の前まで来た時に、津田が、
「僕は登山部の練習で、ここを登った!」と高い石垣を指さして自慢げに言ったので、なんかちょっとカチンと来て、
「お前が登ったんやったら、おれもイケるわ!」
「じゃあ、やって見ろよ」ということになり、学生服で登り始めた。途中まで登ると、結構な高さだし、上の方に行くにしたがって反り返りが激しくなり(『武者返し』というらしい…)、
(落ちるかも…)という恐怖感が湧いてきた。
「わかった、わかった。もうわかったから、降りて来いや!」津田も焦りだして声を掛けてきた。
だが、その時は石垣の真ん中ほどに来てて、すでに下に降りる方がキツい状況で、下には降りられなかった。
「もう降りるのは無理やから、登る」と言うと、津田は、
「わかった、上に行く」と言って、上段の方に回って行った。少しの間一人になり、下を見て、
(落ちたら、ただでは済まない…)と思いながら、必死で登った。少しして、石垣の上の方で、津田が、
「がんばれ!」とか叫んでると、掃除をしていたおじさんやおばさんが集まって来て、
「まあ、怖い…」とか言ってる声が聞こえた。
その中の一人のおじさんが、
「こっちこっち。こっちへ来たらええ!」と津田の横で下を覗き込んで、励ましてくれた。一番上の石の上部に手を置いた時には、手を上から押さえてくれて、
「もうちょっとや、がんばれ!」と声を掛けてくれた。体重を考えれば、足を滑らせれば、確実に下に落ちるとは思ったが、石の冷たさでない、手のぬくもりを感じたせいか、なぜかほっとしてありがたかった。
「よかった!」
「もう登られんぞね」
「すみません、ありがとうございました」おじさんやおばさんにお礼を言って、そそくさと退散。
後日、
「おまえ、本当にあそこ登ったんやろうね?」と津田に尋ねると、
「うん、登ったのは登ったんやけど、登山部の練習の時やから、ロープとかつけて…」ときまり悪そうに言った。
「なんや、それ!なんで言わんかったん!」まあ、こちらも詳細を聞きもせず登ってしまったから、自業自得ではあるが、少なくとも、あの石垣を津田が登れたことについては、合点がいった。
カテゴリー: 随筆
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